お勝からの手紙(5)
(やっぱり、見落としがあった)
平蔵(へいぞう 29歳)が独り合点してうなずいので、権七(ごんしち 42歳)が口まで運んでいた盃を戻した。
「-----?」
掌で制した平蔵が、いまは上総(かずさ)の寺崎村で竹節(ちくせつ)人参の植え場をつくっている太作(たさく 63歳)が、宇都宮の城下で〔荒神(こうじん)〕の助五郎(すけごろう)とその一味らしい者を見かけた顛末(てんまつ)を語った。
【参照】2010年2月24日~[日光への旅] (3) (4) (5)
「すると、長谷川さま---いえ、銕(てつ)っつぁんが京の荒神口の太物屋(もめん衣類の店)で取り逃がしたお賀茂(かも 35歳)とそのむすめっ子も宇都宮にいたわけでやすな」
「そうらしい」
権七は、お勝が着府したら、宇都宮でお賀茂の顔をみた近所の者を上府してもらい、お勝ともども、絵師に印象を告げ、似顔絵を描かしたらどうであろうと、提案した。
「似顔絵か。権さん、火盗改メが似顔絵を描かせるのは、火付けと主殺しだけなのだよ」
「旅の入費なら、[化粧(けわい)読みうり]のあがりからでます」
平蔵は、京の絵師・北川冬斉(とうさい 40すぎ)の酒やけのした顔をなつかしくおもいうかべ、苦笑した。
「絵師のことは、〔耳より〕の紋次(もんじ 31歳)が、親しいのがいるといっていたな」
「そんじゃ、明日にでも紋次どんにつなぎ(連絡)をいれときやす」
【参照】2008年8月11日~[〔菊川〕の仲居・お松] (10) ((11)
「その似顔絵をどう使うつもりかな」
「木版を彫らして、元締衆に配り、シマのなかを洗ってもらいやす」
「権さんは、江戸に潜んでいるとでも?」
「いえ。しかし、お勝どんが江戸へくだったと知ったら、やってこないともかぎりやせん」
似顔絵ができたら、京都東町奉行所の同心・加賀美千蔵(せんぞう 32歳)にも送るこころづもりになった。
【参照】2009年9月13日]~[同心・加賀美千蔵](1) (2) (3) (4) (5) (6)
2009年9月30日[姫始め] (2)
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