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2011.01.29

平蔵の土竜(もぐら)叩き(5)

「で、長谷川うじが考えている土竜(もぐら)叩きは---?」
火盗改メ・本役の組頭の(にえ) 越前守正寿(まさとし 41歳)が訊いた。

陪席していた筆頭与力・脇屋清吉(きよよし 52歳)と平与力・(たち) 朔蔵(さくぞう 37歳)も興味津々の表情で平蔵(へいぞう 36歳)を見まもった。

そのとき、里貴(りき 37歳)が顔をだし、
「そろそろ、お酒とおつまみをお並べしてもよろしゅうございましょうか?」
「酒と肴だけにしてほしい。話しあいはあと、小半刻たらずでおわろう」
平蔵(36歳)が応え、里貴がこころえた。

4人の盃を満たしおえた里貴が消えた。

「おとりの偽(いつわ)りの風評を流します」
「偽(いつわ)りの風評とは---どのような?」
平蔵とはもっとも親しいと自認している脇屋与力が口をはさんだ。

「さよう、躋寿館(せいじゅかん のちに医学館)に押し入った賊は、大盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助(きのすけ 60歳)一味と、火盗改メは見当をつけた---といった噂です」

長谷川うじは、あの躋寿館の一件tが、どうして〔蓑火〕一味の仕業(しわざ)ではないと断定したのかの?」
本役の問いに、
「その一は、退去のおりに鉄菱(てつびし)を撒いております。〔蓑火〕は鉄菱を用いません。鉄菱を持ち運ぶにはそれ相応の容(い)れ袋を用意していなければなりません。そのニは、朝鮮人参を持ち去っております。あれは高価な薬草ではありますが、売りさばき先がかぎられており、売り人が容易に割りだされます。〔蓑火〕は、そういう危ないものには手をつけませぬ」

「ふむ」
本役がうなずいた。

長谷川さま。躋寿館の廊下に撒かれていた鉄菱は、52ヶでございました。としますと、賊は60ヶから80ヶは持参していると見られます。1ヶが7分(2.7cm)近い鉄菱80ヶといいますと、かなりの重さになります。容(い)れている袋もそれなりに大きく丈夫でないと---」
与力の疑問であった。
舘の亡父・伊蔵(いぞう 享年60歳)は、脇屋の前の筆頭与力としてすでに登場している。

どの。いいところへお目をつけられた。じつは10年以上も前に、当時、甲府勤番頭だった縁者に古府中の印伝屋を総あたりしてもらい、くさり帷子で裏打ちした袋の注文をうけた店をつきとめました」
朔蔵は、火盗改メの与力としてよい勘をもっている)

参照】2008年8月20日[〔橘屋〕のお仲] (

経緯(ゆくたて)をかいつまんで話すと、 本役が、
「注文者の正体はわからなかったということだな」
「御意(ぎょい)。したが、そのころの〔蓑火〕には、武田方の軒猿(のきざる)の血筋の者もいたようでした」
(りょう 享年33歳)の名を、さすがに伏せた。
本役も、あえて訊かなかった。

料理の膳が運ばれてき、 本役が話題を打ちきった。
「さ、料理を堪能しようぞ」

参照】2011年1月25日~[平蔵の土竜(もぐら)叩き] () () () () () () () () ()  (10) (11) (12) (13

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コメント

鉄菱は『鬼平犯科帳』にはありません。ちゅうすけさんの独創ですか?

投稿: tomo | 2011.01.29 14:51

>tomo さん
独創といわれると気はずかしいのですが、鉄菱の考案より、その入れ物の印伝のほうが独創といいたいです。運ぶの大変ですから。たいていの布の袋だし、菱の爪にやられてしまいましょう。

投稿: ちゅうすけ | 2011.01.30 17:04

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