平蔵の土竜(もぐら)叩き(3)
「土屋(帯刀守直 もりなお 48歳=現在 1000石)組からきた6人の身状があれば、書き写しておいてください」
平蔵(へいぞう 36歳)の注文に、吉田藤七(とうしち 40歳)が、筆頭与力の脇屋清助(きよよし 53歳)の表情をうかがったうえで承知した。
「6人の中で、酒が好きなのは---?」
「みんな好きなようですが、とくによく呑んでいるのは茂助(もすけ 45歳)と喜八(きはち 24歳)でしょうか」
「喜八は24歳というと、土屋組での牢番がふりだしのようだが---?」
「お察しのとおりです。ほて振りの魚売りをしていたのですが、19のときに酒の上で喧嘩をし、足の骨を折られ、行商ができなくなったので、土屋さまのところで牢番に雇われたのだそうです」
「すると、45歳の茂助は、土屋さまの前任の菅沼(藤十郎定亨 さだゆき 享年=49歳 2025石)さまのときから---?」
先手・弓の2番手---すなわち、脇屋筆頭与力や吉田同心が組下であった菅沼定亨が火盗改メのときには、一族の藤次郎(13歳=当時)と召使い頭・お佐和=32歳)の色事で迷惑をかけたことがあった。
吉田同心はともかく、脇屋与力は相談にあずかったろう。
【参照】2010年7月21日~[藤次郎の初体験] (1) (2) (3) (4) (5) (6)
対岸の火事は大きいほど、人の色事はもめるほどおもしろい---というが、いまはそんなことにかかずらわっている場合ではない。
「さようではありませぬ。菅沼さまのところへは、前任の赤井越前(守忠晶 ただあきら 48歳=現在 1400石 京都町奉行)さまから引き継ぎました」
「牢番の主(ぬし)みたいな男だな。しかし、赤井さまのところからきたときには38歳だから、その前の嶋田弾正政弥(まさはる 45歳=現在 新番頭)さまのところで雇われたとしても、35歳。その前がありそうな---」
「調べてみます」
そこへ、組頭の贄(にえ) 越前守正寿(まさとし 41歳)が顔をだし、
「なにか、おもしろそうな相談か?」
「いえ。土竜(もぐら)叩きの下相談でございます」
平蔵が応えた。
「土竜叩き---? 土竜とは、地中を這っているもくらのことか?」
【参照】2010年1月25日~[平蔵の土竜(もぐら)叩き] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13)
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コメント
先手・弓の第2の組の代々のお頭が登場---この組はこれから5年後に長谷川平蔵が着任して指揮をとる組ですよね。
その組の牢番のスパイ行為を暴いておくという伏線、さすが、平蔵さんです。
投稿: 文くばりの丈太 | 2011.01.27 06:08
>文くばりの丈太 さん
いつも、コメントをお気くばりいただき、恐縮です。
丈太さんのお気くばりこそ、鬼平の気くばり以上に、ちゅうすけは勇気づけられています。
あのがたいことです。
投稿: ちゅうすけ | 2011.01.30 16:40