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2010.07.24

藤次郎の初体験(4)

藤次郎(とうじろう 13歳)が召使い頭・佐和(さわ 32歳)を説きふせるには、いささか時が必要なようであった。

そのあいだに平蔵(へいぞう 31歳)は、〔木賊(とくさ)〕の今助(いますけ 29歳)と小浪(こなみ 37歳)のあいだからにおもいをはせていた。

小浪は、いまは店を売り、元締の席についた今助の新造として、今戸の料亭〔銀波楼〕の女将らしくやっているが、御厩河岸の舟着き前の茶店は、4年前に逝った先代の元締・林造(りんぞう 享年62歳)がもたせてやったものであった。

【参照】2009年6月20日~[〔銀浪楼〕の今助 ] () () () () (
2009年4月17日~[一刀流杉浦派・仏頂(ぶつちょう)] () () () () (

確かめてはいないが、小浪のほうから今助を誘ったのであろう。
今助も、小浪の容貌と才覚を憎からずおもっていたろう。

仏になった林造は、2人の仲をしらないで逝ったとすれば、しあわせだったかもしれない。
しったとしても、男として、女を満足させられなくなっていたし、隠し子の今助ならと、見ないふりをつづけたか。

佐和が仮に織部定庸(さだつね 享年35歳)の側女(そばめ)の一人であったとしても、主(あるじ)は5年前に逝去していた。
5年という歳月は、おんなざかりの佐和にすれば、10年にも20年にもおもえたろう。

佐和が玄関脇の客間へはいってきた。
年齢よりも2つ3つ若く見えたのは、すっきりした顔立ちと薄化粧のせいかもしれない。

佐和でございます。ご用のお筋がおありと、若さまから伺いました」
丁寧に頭をさげ、あげた目もとがかすかに微笑んでいた。
(自信たっぷりだな。(とう)を擒(とりこ)にとっているともきめてかかっておる)

どのから仔細は聞いた。あれの好きごころの悩みを助(す)けてやったそうで、師として礼を述べさせてもらう」
「恐れいります」
「なに、あの齢ごろは、おんなへのこだわりがひどく高まる時期でな。ひとたび経験してしまうと、潮が退(ひ)くようにすっきりし、剣の道にも学問のほうもすすむものだ」
「若い男の方のこころの動きは、とんと存じませぬので---」
「おお、それよ。若くない男の心情はお分かりのようであるな」
「は?」
織部どのが亡じられたのは、お幾つのときであったかな?」
「35歳---の、年末でございました。別荘で---」
「そのお齢まで、おとことして、そなたをお求めになった?」
ぎょっとし、言葉を失った。

「いえ。お亡くなりになる半年ほどは、お躰がお弱りで---」
「別荘で養生なさったのは1年と---?」
「10ヶ月ほど---」
「そのあいだ、ずっと、そなたが看護を---?」
「はい」
「22ヶ月から6ヶ月を差し引くと、18ヶ月ものあいだ、お求めに応えていたと?」
「お薬代わりになればと---」
「病いは---?」

間をおいて、消えいるよう声で
「---労咳(ろうがい)」
「労咳の者に、秘めごとは禁物ではなかったかな?」
佐和は黙した。

「いや、織部さまとのことを、とかく申しておるのではない。ただ、はいまが伸びざかりでな。その齢ごろの放精は、おとこの躰に毒にはなっても薬にはならぬ。控えてくれようか?」
答えはなかった。
唇を噛んで沈黙していた。

は、まだ少年ゆえ---」
平蔵がいい終えるのも待たず、
「若さまは、もう、立派な男におなりになっておられます」
「男にしたのは---」
おことであろう、といわせず、

「最初から、私の中へ、精をお放ちくださいました。そのあとも、ずっと、頂戴しております」
「男といっているのは、そのことではない---」

「どのことでございますか。おんな子どもを養うということでこざいましたら、4年前に遺跡7000石をお継ぎになり、家臣にもとどこおりなくお手当てをあてがっておられます」

「いや。いまのお齢で、しげしげとおんなへ精をあたえていては、躰の成長にさしさわりがあろうと、師として心配しているのだ」
「では、前髪をお落としになってからだと、およろしいとでも---?」

「先代の殿は、前髪をおろす前から側女に親しみすぎておられたために病気がちで、お上のお役にもおつきになれなかったと、内室さまから伺っておる。までもそのようになっては、7000石がお取り上げになるやもしれぬ」
またも佐和は黙し、平蔵を睨みかえした。

「そなたほどのおんなぶりであれば、嫁への引く手は、あまたあろう」
「---若さま}

「あきらめてやってくれ。このとおりだ」
平蔵が頭をさげた。

「若が、おあきらめくださいましょうや?」
「そなたが姿を消せば、あきらめるであろう。なにぶんにも、19歳もの齢のへただりは、大きすぎる」

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(栄泉『春情指人形』 イメージ)


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コメント

木賊(とくさ)の今助や小浪さんまで登場ですか。勿論、平蔵さんが経験したことを基にしてしか問題の解決法はないわけですから、過去の体験の量と質が問われます。
これほど、経験、体験がものをいう物語は、ブログにうってつけかも。
ちゅうすけさまも心得ておられて、過去シーンに存分にリンクを張っていらしゃいます。
ここまでリンクが張ってあると、まさに、ネット小説ですね。ちゅうすけさまは、史実小説とおっしゃるでしょうけれども。

投稿: tsuuko | 2010.07.24 03:45

>tsuuko さん
なにしろ、5年ごしのブログです。すでに登場して幕臣だけでも300人をくだらないとおもいます。
盗賊も50人を越えていましょう。
そのほかに、脇の人物たちが、出ては消え、消えてはまた登場し---ですから、書いている当人もしょっちゅうメモを覗く始末。
アクセスなさっている方は、もっとたいへんでしょう。
そこで、なんとか既登場者を思い出していただくためのリンクでもあります。
リンク小説? 新しいネーミングですね。広まってほしいし、つづく作品がでてくるといいですね。

投稿: ちゅうすけ | 2010.07.24 09:14

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