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2009.04.04

用心棒・浅田剛二郎(2)

浅田うじに謝らないといけませぬ」
「なんでしょう?」
浪人・浅田剛二郎(ごじろう 32歳)---いや、いまは浅草田原町(たはらまち)の質店〔鳩屋〕方のりっぱな用心棒という肩書きがある---その浅田用心棒が、澄んだ眸(め)で銕三郎(てつさぶろう 25歳)をみつめた。

火盗改メ・本役(ほんやく)の松田彦兵衛貞居(さだすえ 63歳)の屋敷兼役宅から連れだって、〔笹や〕に立ち寄っている。
〔笹や〕は、二ッ目ノ橋の南、弥勒寺の門前の茶店である。

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(二ッ目の通りと弥勒寺。山門前の板庇がお熊の〔笹や
『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)

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(上絵の部分拡大。〔笹や〕と隣の〔植半〕。「植木や」の文字が)

女将のお(くま)は、おんなのさかりをとうに過ぎた46歳だが、当人は依然として現役ぱりばりのつもりでいる。

久しぶり顔を見せた銕三郎に、
長谷川の若、嫁ごをもらったというでねえか。どうだえ、おれの味とくらべて?」
臆面もない口のききようである。
剛二郎を紹介されると、
「読み売りに、10人もの盗人をばったばったと片づけたと書かれていた用心棒さんが、このおさむれえかい? もう一本の剣で、おんなに『死ぬ、死ぬ』っていわせてみねえかね?」
剣は一流の浅田用心棒も、さすがに赤面して、
「倒したのは5人」
と訂正しそこなった。

「おどの。浅田うじと内密の話があるので、奥の部屋をしばらくお借りしたいのだが---」
「奥ってい7やあ、いつだかの晩に、若と裸の躰と躰をもみあった部屋でいいかね?」

【参考】2008年4月20日~[〔笹や〕のお熊] (1) (2) (3) (4) (5)

「また、これだ---」
「思い出のあの部屋でいいんだね?」
「じゅうぶんです」
という次第で、2人は、〔笹や〕の部屋にいる。

浅田うじを囮(おとり)にしてしまったことを、です」
「囮?」
「読み売りに、書かせてしまったことです」
「あれで、〔鳩屋〕の亭主は、大満足。わしの目利きのたしかさが江戸中に知れわたったと、鼻高々です」

「品定めはいいとして、賊の中には、〔浮塚(うきつか)〕の甚兵衛(じんべえ 30歳)一味はだらしがない、おれなら---と、売名の輩が押しかけるのがいないともかぎりませぬ」
「そのときはそのとき、です」
「5,6人の賊なら---いや、10人でも、浅田うじのお手並みなら片づけられましょう。しかし、15人がいちどにかかったら---しかも、手錬(だ)れの浪人が混じっているかもしれませぬ」
「------」

松田組だけでなく、父にも話して、手すきの先手組や両番(書院番と小姓組)の若くて腕の立つのを毎晩、夜回りさせるつもりですが、〔鳩屋〕のほうでも、浅田うじとどっこいどっこいの用心棒をもう一人、雇えないかと---」
「さて。あのけちな長兵衛がなんといいますか---」
浅田うじの命がかかっています。なんとか口説けませぬか」

浅田用心棒が、ひとり言のようにつぶやいた。
「手前ひとりなら、何人の賊でも手にあまるということはありませぬが---」
この言葉に、銕三郎は天啓をえた。


参考】2009年2月17日~[隣家・松田彦兵衛貞居] () () () () () () () (

1009年~4月3日[用心棒・浅田剛二郎] () () (


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