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2010.06.10

小料理〔蓮の葉〕のお蓮(5)

(てつ)さま。さっきの蝋燭問屋〔不二屋〕の金兵衛さんが退(ひ)かせたおって人、どうなったんですか?」
このまま眠っていいというので、いつもより入念に励み、寝入りかかったところを、ゆすられた。

行灯の灯の明るさもそのままで、里貴(りき 31歳)の双眸(りょうめ)に橙色の炎が、ちらちらと映っていた。
寝衣がわりに、例の特別あつらえの腰丈の浴衣なので、素肌の太ももが平蔵(へいぞう 30歳)の股へさしこまれていた。

昼間の暑さがすっかり消えたわけではなく、掛け布ははねのけてい、桃色がかった乳房は透きとおる白に戻っているのが見えた。

「だから、深川の小名木(おなぎ)川のとっかかりに、小料理屋をもたせてもらってい.ると話したろう」
「いいえ。お話になっていません。お隠しになったところをみると、さては---」

握ってきた。
「変な妬(やき)ごころは、はしたないぞ」
「おいくつのお方ですかか?」
「どっちだ? 金兵衛か、お(はす)のほうか?」
「おって---?」
「お(ゆき)が名前を変えたんだ}
{その、おさんのお齢---」
「29だか、30歳だか---訊いたことがない」
「おんな、まっさかり。蝋燭問屋の〔不二屋〕の主人は?」
「50を、3つ、4つ、出たところ、らしい」
「それじゃあ、不足なんです」
「なにが---?」
「これ、です」
「おい、よせ---里貴も不足なのか?」
「いいえ。満ちたりました。が、気になります、おさんが---。なんという、お店ですか?」
「〔蓮の葉〕---」
「ほら、ご覧なさいませ。蓮っ葉を売りものにしているじゃ、ございませんか」
握った手を、ゆつくりとゆすった。

「今夜の里貴は、どうかしているぞ。もう、寝(やす)もう」

平蔵は、剣友・岸井左馬之助(さまのすけ 30歳)とお雪のあいだがらを聞かせた。

参照】2008年10月22日~[〔橘屋〕のお雪] (2) ()() () (

「無二の親友が抱いたおんなとなにする、そんな裏切りはできぬ」
「それならよろしいけど。とにかく、〔蓮の葉〕で本身をお抜きにならないでくださいませ」
「抜くわけない、いまは〔蓮岳(れんがく)屋〕の持ちものだ」

そう、見得をきってから、〔狐火(きつねび)〕の持ちものであったお(しず 18歳=当時)とひょんなことになったことが頭をかすめた。

参照】2008年6月2日~[お静という女] () () () () (

「〔蓮岳屋〕---?」
「不二は、蓮岳って教えてくれたのは、里貴であろう」

「〔不二屋〕キン兵衛さんといいました?」
「うむ」
「もしやして、キン兵衛のキンは、金銀の金ではないかも--」
「なに?」
「布の巾---で、巾兵衛かも」
「巾兵衛の巾の字の上に、横一と点をうってご覧なさいませ」
「む。市兵衛---〔蓮沼(はすぬま)〕の市兵衛---でかした、里貴

参照】2010年6月5日~[小料理〔蓮の葉〕のお蓮] () () () () (

       ★     ★     ★

償還『池波正太郎の世界 26』は、[鬼平犯科帳 六]。

26

東京で〔鬼平クラス〕を持っていたころ、月2回のうち、1回はウォーキングと銘うち、作品に登場するスポット5ヶ所ー(3km)ほどを2時間ほどかけて、終わると懇親会の夕食をとった。
途中、3,40分のティー・タイムをもうけた。日曜日は、喫茶店・食堂ともに休んでいるところが多いので避けてコースを組んだ。
80コースほども組んだろうか。その記録が書棚を2連ほども占領している。
スポットめぐりは、単に切絵図に指定してあるだけでは、食指が動きにくい。

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