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2009.12.27

茶寮〔貴志〕のお里貴(りき)(3)

佐野与三郎政親(まさちか 42歳 1100石 西丸目付)と入れ違いの形で現れたのは久栄(ひさえ 21歳)の父・大橋与惣兵衛親英(ちかひで 60歳 200俵 新番与頭)であった。

ついでながら、組頭は600石格であるから、家禄との差---足高(たしだか)は400石である。
久栄は、継妻のむすめで、三女。
先妻は2女を産んで歿した。
長女は、与惣兵衛親英の実家の黒田家の養女となっている。
次女は、病いの床にある---といっても臥せっているのではなく、いまの病名の鬱の状態が長くつづいているといったほうが正しい。

参照】2008年9月19日~[大橋家の息女・久栄(ひさえ)] (1) (2) () (4) (5) (6) (7) (8)

一統が揃うまで、玄関脇の控えの間で待つことにしている父に、久栄が、
「父上。銕三郎(てつさぶろう)さまが菅沼さまのことをお訊きになりたがっておられます」

平蔵宣以(のぶため 28歳)から、婿としてのあいさつを受けおわると、
菅沼どののなにを---?」
ほかの客がいないほうがいいとおもったのであろう、さっそくに切りだした。
平蔵どのは、お父上・備中守宣雄 のぶお 享年55歳)どの後任として、目付から京都町奉行に大抜擢された山村信濃守良旺 たかあきら 45歳 500石)どのの母者(ははじゃ)が、日光ご奉行の菅沼主膳正虎常 とらつね 59歳 700石)どのの姉者(あねじゃ)ということはご存じでしたか?」
平蔵には初耳のことであった。

右府(うふ)方の出の山村家が、紀州方の菅沼家から嫁を迎えられたというのは---?」

茶寮〔貴志〕の女将・お里貴(りき 30がらみ)の亡夫が、紀州藩からの御家人であったといった夏目藤四郎信栄(のぶひさ 22歳 300俵)の言葉とともに、4年前に田沼意次 おきつぐ)邸でちらりとみたその顔が脳裡をかすめた。

摂津どのの産後、数年もせず、その女性(にょしょう)は歿され、山村家では継室を迎えられた。川窪:系武田六左衛門信常(のぶつね 1700石)どののご息女であった」
「お舅どの。山村家に遺恨はございませぬ。知りたいのは、菅沼主膳正さまのことで---」
「ま、もう一言。主膳正どののご継嗣・次郎九郎定昌(さだまさ 32歳)は、中奥の番士を休んでおられるが、その四女が山村信濃どのの養女として迎えられておりますのじゃ」
「縁がつづいておるということですな」

「で、菅沼主膳正どのご息女じゃが、上のお2人は幼くして病没、ご三女が先年、夏目家(300俵)へ嫁がれた」
「きょう、ともに跡目を相続した藤四郎信栄の室です」
与惣兵衛親英はふかくうなずき、
「たしか、久栄と似た齢ごろのご息女であったが---菅沼家のことがお知りになりたいというのは、まさか、そのご息女のことではありますまいな?」
「いえ、違うともいえますし、そうだともいえます---」
「といわれると---?」

「かすかに耳にしたのですが、紀州・菅沼家にご縁の方が、田沼家とつながっているとか---」
「それは初耳ですな」
「いえ。紀州藩士時代のことですが---」

参照】2008年3月4日~[田沼意次の父] () (
2009年3月20日[菅沼攝津守虎常] (

平蔵は、舅・与惣兵衛親英が話してくれた菅沼主膳正虎常についてのくさぐさを、
(おれが訊きたいのは、こまごました家庭事情ではないのだ)

4年前に四谷の戒行寺で会った菅沼攝津守虎常(55歳=当時)は、鷹揚なものこ゜しの裏に明察を秘していた。
50代なかばという年齢に似合わない澄んだ双眸(ひとみ)が、そのことを洩らしていた。

その仁が、日光奉行という遠国(おんごく)へ配された真意を訊きたかった。
三女・菸都(おと 20歳)が田沼意次の中屋敷にいたお里貴と知り合いなのは、なぜか。
そもそも、お里貴の素性は?

しかし、お里貴田沼邸にいたことは口外できないし、もどかしさを顔色にもだせない。

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コメント

無事に相続のお許しが出たというのに、またまた平蔵さんは、奇妙な謎に当面したようですね。
お里貴さんがらみの謎、どきどきです。

投稿: tsuuko | 2009.12.27 05:55

>tsuuko さん
なんだか、池波さんのセリフをいただいたみたいで気tがひけるのですが、自分でも、この先どうなるのか、わからないのです。
すべては、平蔵さんまかせです。
平蔵さんの後ろからついていくしかないのです。

投稿: ちゅうすけ | 2009.12.27 10:28

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