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2011.03.22

与板への旅(18)

高崎の本陣を朝発(だ)ちし、10里(40km)近くをこなして、6泊目は深谷宿の本陣・〔近江屋〕彦右衛門方。

11月2日 深谷宿を朝発ちする前、平蔵(へうぞう 36歳)は、佐千(さち 34歳)がくれた2分(8万円)を懐紙に包み、
松造(よしぞう)。長旅、苦労であった。わ;れは、蕨宿で2日ほど静養してから屋敷へもどる。おぬしは、蕨からそのままお(くめ 40歳)のもとへ帰り、長いあいだひとり寝をさせたうめあわせをたっぷりしてやれ。ただし、2日目の八ッ(午後3時)ごろ、われがおぬしの家へ寄ったら、いまの旅支度で屋敷へ連れだってきてくれ。これは、お(つう 13歳)への土産代だ」

主従は、その日の七ッ半(午後2時)に、蕨宿の本通り、旅籠・〔林〕源兵衛方の前で別れた。
平蔵が門口に立つと、番頭が飛びでてき、
「お連れさまが、1刻(2時間)も前にお着きになり、お待ちかねでございますよ」
小女に、すずぎの水を---と叱りつけた。
里貴(りき 37歳)がこころ遣いをはずんだにちがいない。

離れの手前で、大声で、
「奥方さま。お着きでございます」

里貴が笑顔であらわれた。
平蔵がうなずき返し、部屋へ入った。
うしろ手で襖をしめるや、飛びかってき、口を吸い、腰をすりつけた。

「もういや。待つ苦しみは、もう、いや」
涙声であった。

「道中羽織と袴を脱ぐまで待ってくれ」
里貴が手をのばし、羽織を脱がせ、袴の結び目をほどいた。

着物の前をまさくり、平蔵のものを掌でつかむ。
たちまち、起立した。
「迷子にならなかったでしょうね」
里貴を待ちかねて、このとおりだ」
「お布団、敷きますか?」
「まだ、陽が高い。それに、湯を浴びたい」
「いっしょに浴びます」
「宿の者がわらうぞ」

わざとらしい足音がし、
「ごめんください。お茶をお持ちしました」
里貴が細くあけ、受けとり、湯のことを訊いた。

「すぐ焚きつけますから、小半刻(30分)ばかりお待ちください」

そのあいだに、どうしていいかわからなくなった里貴は、平蔵の胸元をひらいて乳房を吸ったり、股に手を入れたり、落ち着かなかった。
しまいには、片方立て膝をして裾を割り、平蔵の手をみずからの秘所へみちびいた。
「あの寝衣、持ってきました。着替えますか?」
「すぐにでも抱きたいのは、われも同じ気分だが、夜は長いし、2人きりなのだ。落ち着きなさい」
「もう、躰中に火がついたみたいに熱くなってきていて、おさまらないんです。ほら---」
袖をまくり、淡い桜色に色づいた腕をみせた。

気がついたように、部屋のすみにおかれた道中荷物をほどき、きれいにたたまれた下帯の上におかれた使いずみのものを鼻で臭(にお)いをたしかめ、
「いまお召しのもお外しくださいな。風呂で洗います」
「湯殿で外せばいいだろう」
「それもそうですね」
笑った。
男の下帯を洗うという些細なことで、世話を焼きながらともに生きていることを実感したがっていた。

平蔵が湯殿へ去ると、里貴は浴衣に着替え、下にゆ文字をつけ、下帯を手に脱ぎ場へきた。
平蔵が浸かっている脇から湯をくみとり、躰を脱ぎ場においたまま、手は洗い場にだして下帯をもみながら、
「与板の〔備前屋〕さんには、きれいな女中がいましたか?」
とっさに両掌に湯をくみ、顔に流し、
「きれいな女中はいなかったが、美人の後家の女主人がいた」
「お幾つの後家さまでした---?」
「13歳の男の子と10歳の女児のいたから、30を2つ3つ、でたというところかな」

「この下帯についていたのは、その後家さまの、あの匂いでございますね?」
「そんなはずはない---」
「でも、いまお外しのとでは、匂いがちがいます」
里貴は、妬(や)きごころをださないから、いいおんなだとおもってきたが---」
「匂いのこと、うそでした。はしたないことを申しあげました。お許しくださいませ」


参照】2011年3月5日~[与市へのたび] () () () () () () ()  (9)  ((10))  (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (19) 

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