ちゅうすけのひとり言(37)
前回(36)のひとり言で、中公文庫・鳶魚江戸文庫8『敵討の話 幕府のスパイ政治』から、[御所役人に働きかける女スパイ]を選び出し、、御所・口向(くちむき)役人の汚職の探索ぶりを紹介しておいた。
鳶魚は、京都西町奉行・長谷川平蔵宣雄(のぶお 享年55歳 400石)の後釜の山村信濃守良晧(たかあきら 45歳=着任・安永2年 500石)が幕府上層部から密命をうけ、案をつくしたように書いている。
山村信濃守についても、
名を良晧(よしはる)といって、信州木曾御関所預、交代寄合山村甚兵衛の分家で五百石、早く御小姓になり、御先手組頭から御目付を経て、京都町奉行になった人だ。
山村信濃守が赴任の際に幕閣は特に内命を授けた。「近年禁裡御所方御賄入用莫大にして、年々御取替高多く、是全く御所役人共、非分の義有之と相見え候得者、其方宜敷相糺すべき」旨を命ぜられたのであった。
べつにあげつらう気はないが、鳶魚ともあろえう碩学が、「先手組頭から目付」というような基本的な間違いを記しているのは、どういうことであろうか。
名前の読み方についても、首をかしげるのだが。
鬼平ファンならすでに衆知のように、先手組頭は1500石格、目付は1000石格である。
『寛政譜』にも、先手組頭に就任したとは書かれていない。
それはともかく、山村信濃守の前任の長谷川平蔵宣雄も、同じ密命を受けていたが、着任後わずか8ヶ月で病没してしまったので、成果をあげることができず、密命だったので記録も残されていないのではないか---これが、ちゅうすけの推理である。
ふたたび、[御所役人に働きかける女スパイ]から、もう一件、糺しておく。
事件は、安永3年(1774)8月27日、関係者の処刑いいわたしをもって落着するが、購入物件についての、御所役人の目にあまるほどの購入金額加筆があきらかになった夜の項---
禁裡御付水原(みはら)摂津守・天野近江守(これは秀忠将軍の時、朝廷からのお請求によって設けられた皇居警察官とも申すべき役柄)、召取方を指揮し、飯室左兵衛大尉以下を揚がり場へいれ---
とあるが、このときの上(かみ)の禁裏付は、先日に長谷川平蔵宣雄があいさつに行ったたしかに天野近江守正景(まさかげ 72歳=安永3年 300俵)は在任中であった。
もう一人---下(しも)の禁裏付水原摂津守保明(やすあきら 53歳=安永3年 200俵)の『寛政譜』をみると、禁裏付に任じられたのは安永5年(1776)7月8日、事件が片付いて2年後である。
だから、御所役人の不正摘発には関係がないようだが、長谷川家とは大いに縁(えにし)がある。
平蔵宣雄の養女---つまりは銕三郎(てつさぶろう)の妹・多可が嫁いでいる。
【参照】 2007年10月28日~[多可が来た] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
2007年12月3日~[多可の嫁入り] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
2008年1月5日[与詩を迎えに] (16)
多可は、後妻であった。
男の子を一人産んで歿する薄幸の生涯であったが、銕三郎という兄を持てたことを、いつまでも感謝していた。
もっとも、14歳で男になった銕三郎は、芝・新銭座の表御番番医・井上立泉から、処女の芝生は、割れ目から左右にきれいになびいていると吹かれ、多可にいくども「見せろ」と言いそうiになって困ったが。
多可が歿してから、長谷川家と水原家はまったくといっていいほど疎遠になった。
というより、水原善次郎保明が微禄を気にしてよりつかなくなったのである。
水原家が200俵加増されて400俵---采地400石に相当---になったのは、この事件から7年ばかりあとの天明2年(1782)である。
というわけで、平蔵宣雄が新任のあいさつにいった(しも)の禁裏付は、名門・高力土佐守長昌(ながまさ 54歳 3000石)であった。
銕三郎は、長昌のことより、その役宅が〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう 50すぎ)のかつての店に近いことのほうが印象に残ったと洩らしていた。
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コメント
ちゅうすけさんの推理、おもしろい!
もし、そうだったとすると、鬼平物語に、もっと厚みがつきますね。
史料、どっかから出てこないかしら。
投稿: tomo | 2009.09.08 10:55
>tomo さん
おほめ(?)のお言葉、ありがとうございます。
なんですか、ある史料によると、三田村鳶魚さんも見逃していたことがあるようなんです。
それによると、山村信濃守だけの手柄でもないみたい。つまり、女スパイによるのではなく、ある偶然から不正がバレてきたとか。
もうすこし調べ、推理してから発表します。
諸田玲子さんも腰抜かすような結論になりそう。
投稿: ちゅうすけ | 2009.09.08 14:38
おお、新しい史料が見つかったんですか。
すばらしい。期待いっぱい。
投稿: tomo | 2009.09.09 11:26
>tomo さん
それがです、なんと、これまで、ここに掲示ずの史料本の中にあったんです。
さりげなく書かれていたんです。
そうですね、あと、10日ほどしたらアップできそうです。
それまで、お待ちください。
投稿: ちゅうすけ | 2009.09.09 11:54