小浪(こなみ)〕のお信(のぶ)(4)
それから数日後、平蔵(へいぞう 32歳)は、茶店〔小浪(こなみ)]のお信(のぶ 36歳)を訪ねた。
輝やくほどの笑顔で、迎えられた。
奥の3畳ほどの小座敷へみちびかれた。
かつて、〔木賊(とくさ)〕の林造(りんぞいう 享年62歳)の生前に、今助(いますけ 22歳)と小浪(こなみ 30歳)が密会をつづけていた区画だ。
【参照】2008年12月21日[銕三郎、一番勝負] (1)
「もうすこし自重しないと、店の者に察(ば)れるぞ」
茶を運んできたお信に小言で叱った。
それがまた、お信にとっては、うれしいらしい。
「はい。気をつけます」
ばか丁寧に頭をさげてみせた。
暮れ六ッ(午後6時)近いので、客はいない。
「お喜美(きみ)ちゃん。お店をしまう用意をしなさい」
はやばやと框(かや)寺(現・台東区蔵前3丁目22)裏のお信の家で、酒となった。
肴は、分葱(わけぎ)の酢味噌、人参と牛蒡と蓮根の煮しめが膳にのった、
あいかわらず、お信の酒がすすむ。
平蔵が懐から〔荒神(こうじん)の助太郎(すけたろう 60歳近い)とお賀茂(かも 40歳)の例の人相絵をひろげ、
「密偵(いぬ)になれというのではない。店や舟着きで見かけたら、どっちへ向かって歩いたかだけ覚えておいてほしい」
箱根の山抜けで、親しい〔風速(かざはや)〕の権七(ごんしち 45歳)が職を失った顛末を手みじかに話した。
【参照】2008年3月23日[〔荒神(こうじん)〕の助太郎] (8)
「それから、これは一度きりだと思ってほしい。笄(こうがい)でも買うといい」
高崎での功績でもらった賞金のうちからの1両(16万円)を包んだものを手わたした。
押しいただき、
「長谷川さまから、お足をいただこうとはおもってはいませんが、お言葉に甘え、いつも髪につけさせていただきます」
お礼もそこそこに、布団をとった。
「お信も、好きだなあ」
「6ヶ年分をとりもどすのです---」
「6年前には、そんな気配は見せなかったぞ」
「こんなふうに、実のこれが入ってくださるとは、おもわなかったのですもの」
【参照】2009年6月25日[〔神崎(かんざき)の伊之松] (1) (2) (3)
ことが終わり、お信がつぶやいた。
「恥ずかしいこと、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「おれにできることであれば--」
「長谷川さまにしかできませんし、お願いしません」
「それなれば---」
願いとは、〔不入斗(いりやまず)〕のお信と呼ばれていたころ、盗人(つとめにん)仲間の男衆が話してしいるのを小耳にはさんだことだが、男は、秘部をしっかりと見たおんなのことは一生忘れないと。
しかし、これまで、そんな恥ずかしいことを許したことはない。
処女(おとめ)のあかしを摘んだ庄屋の息子もそのことを求め、拒んだために捨てられたともいえた。
「長谷川さまには見ていただき、覚えておいていただきたいのです」
「初めて聞くことたが、お信が望むなら、弁天さまを拝ませてもらおう」
平蔵に凝視されているとおもうだけで、お信の躰中の血が沸きかえった。
2本指で秘唇が開かれたかすかな音を耳にした瞬間こは、腰が浮きあがった。
中指がそっと入り、上壁にふれたときにはふるえがきた。
(国芳 イメージ)
「なにか、おっしゃってください。もう---」
「入れやまずのお信」
「入れて---きて---」
【参照】2010年9月1日~[〔小浪(ひなみ)〕のお信] (1) (2) (3) (5) (6) (7) (8) (9)
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コメント
〔不入斗 いりやまず〕の語源の解説をコメントでなさって、さっそくに「いれやまず」と地口につかうなど、あいかわらず走ってらっしゃいますな。
いや、けっこう、結構。
投稿: 左衛門佐 | 2010.09.04 05:27
>左衛門佐 さん
〔不入斗(いのやまず)〕という不思議な村名が、あちこちにあることを知り、言葉というものの不思議をしみじみと感じました。
ただし、分布しているのが伊豆から東だけなので、大和朝廷とは関係のなかった先住人の言葉だったのかな、などと、余計な想像をしてみたり、「斗」が租税のことなら、それほど太古の言葉でもないのかなと迷ったり。
投稿: ちゅうすけ | 2010.09.04 11:29
ずいぶん艶っぽい篇になりました。
いまでは、夫婦のあいだではあたりまえの所作ですが、秘画などにえがかれているところを見ると、江戸時代にはたいへんなことだったのかもしれませんね。
投稿: misa | 2010.09.04 12:50
>misa さん
秘画には、もっと激しく鑑賞している図もありますが、このブログは銕三郎および平蔵のイタ・セスクアリスではありますがポルノ小説ではないので、おとなしい図を選んでいます。単なるイメージとして。
投稿: ちゅうすけ | 2010.09.04 13:54