田中城しのぶ草(10)
『旅行用心集』(八隅蘆菴著)は、文化7年(1810)刊だから、14歳の銕三郎(てつさぶろう のちの平蔵宣以 のぶため)が駿州・田中
城へ旅した宝暦9年(1759)3月の、半世紀ほどあとに書かれている。
しかし、その自序(まえがき)は、銕三郎の両親・長谷川平蔵宣雄(のぶお)夫妻の気持ちを代弁しているとおもわれるので、一部を現代語訳して掲げる(これは、15歳の大治郎を山城国愛宕郡(あたぎこおり)大原に隠棲している辻平右衛門のもとへ送りだした秋山小兵衛の覚悟にも通じるであろう)。
さて、旅をする人は、旅立ちのときから心すべきは、たとえ従者がいる人といえども、股引、草鞋(わらじ)などまで身支度は自分でととのえ、朝夕の食事が口にあわなくても辛抱して食べるのも、修行と心得ること。
(『旅行用心集』の東海道旅程図より。駿河あたり。富士川から、興津川、安部川、大井川、天竜川が一つ図に)
さらに、泊まる先々、その土地、所の風俗によって、気にくわないような違いがあるもの。このことを承知していないと、とんでもないトラブルが起きかねない。
風雨にあう日もあろうし、または旅程の都合で早朝から霧の深い山を越えるとか、夜は薄っぺらい夜具で我慢しなければならないときもあろう。また、道連れの仲間と仲たがいしたり、足弱の人が遅れたり、さらには辺地の寒暖のせいで持病が出て難儀することもあろう。
長旅の艱難、千辛、万苦は覚悟しておかないとね。
こういう次第だから、若者にとって旅は何ものにも代えがたいいい体験となり、ことわざでも、可愛い子には旅をさせることだといっている。ほんと、貴賎ともに旅をしない人は、述べたような艱難をしらないから、人情にうとく、人にたいして思いやりがなく、蔭で人から笑われ、指さされるのである。
---と、わが子を我慢強く、人の考えもよく察する人間通に育てようとおもったら、旅をさせなさい、と。
(本文には、旅にまつわるくさぐさの心得61ヶ条中、13ヶ条を現代語にして、ブログ[わたし彩(いろ)の大人の塗り絵]の [中山道六十九次広重・栄泉&延絵図(その一)]の浦和宿での第1泊のあとに掲げているので、興味のある方はどうぞ)。
宣雄は、古書店で巻物『東海道中案内絵巻』を購った。使い古しでところどころ染みがでているが1回きりの旅だからこれでよい。
(懐中用・東海道中案内絵巻の部分)
(注:実物は和紙でじつに軽い。旅行携帯用品は重さがキメテ。いまの旅行案内本はそこを考えていないように思う)。
夕食を終えた宣雄は今夕も、例の田中城主の末裔のリストをにらんだ。きょうは、土屋能登守篤直。
松平大膳亮忠告(ただつぐ)侯 18歳 4万石
水野織部中忠任(ただとう)侯 26歳 唐津6万石
北条出羽守氏重(うじしげ)侯 断家 3万石
西尾隠岐守忠尚(ただなを)侯 71歳 横須賀3万5千石
酒井河内守忠佳(ただよし)侯 74歳 5000石
土屋能登守篤直(あつなお)侯 33歳 土浦4万5千石
太田摂津守資次(すけつぐ)侯 45歳 大坂城代3万2千石
内藤紀伊守信興(のぶおき)侯 40歳 棚倉5万石
土岐美濃守定経(さだつね)侯 22歳 沼田3万5千石
【参照】2007年6月19日~[田中城しのぶ草] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25)
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コメント
『藤枝市史 上』(藤枝市 1980.3.31)から転記。
土屋相模守政直は、天和2年(1682)2月12日、常陸国土浦城を改めて田中城に封じられ、45,000石を領した。
家老は赤尾亦兵衛、品川源左衛門である。
在城僅か2年で、貞享元年(1684)7月10日、20,000石を加えられ、大坂城代に出世した。
そして同2月9日、京都所司代、10月12日、老中と破格の抜擢を受けた。つづいて再び旧領の地、土浦城主となり、その後3回の加増によって95,000石を領する身となった。政直は小堀政一、県宗知の門に茶道を学び、遠州流の茶人として有名である。子孫相次いで土浦城に治し明治を迎えた。
投稿: ちゅうすけ | 2007.06.28 10:10
『旅行用心集』、なるほどと思います。いまは一寸した海外でも旅行のインフラが整っていますから、かわいい子にさせ甲斐のある旅にするには、ほんとうに長期間の貧乏旅行でバックパッカーをさせるくらいでないといけないのかも。江戸の「地球の歩き方」みたいですね。
投稿: えむ | 2007.06.28 23:02