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2007.06.29

田中城しのぶ草(11)

あと2日ほとで銕三郎(てつさぶろう のちの平蔵宣以)が、駿州・田中城下へ旅立つという夕刻、父親・宣雄が書院へ銕三郎を呼んだ。

「きょう、営中で、一番町新道の小膳正直 まさなお。のちの太郎兵衛)どのから、そのほうが田中行きのあいさつに参ったときかされた」
「おうかがいいたしました。田中城は、ご本家の正直大伯父どのにとっても、ご先祖ゆかりの城ゆえ、お知らせしておくほうがよかろうと存じました」
ー番町新道に屋敷を賜っている長谷川小膳正直は、今川系長谷川一門の本家で、1450余石。2007年5月30日[本多紀品と曲渕景漸 ]をご参考に。

「一番町新道だけではあるまい。御納戸町の讃岐守正誠 まさざね)どののところへも参ったであろう」
ここは、長谷川一門中でもっとも家禄が高くて4000余石。そのことは、2007年6月1日[田中城の攻防]に紹介している。
「はい。過分なご餞別とともに、小川(こがわ)の信香院にある、祖・正長(まさなが)どのの墓への香華料もお預かりいたしました」
「ほかにどことどこを、回ったのじゃ」
「千駄ヶ谷の正珍(まさよし)叔父と、市ヶ谷御門内の正栄(まさよし)叔父---」
「なんだ、一族、すべてではないか」
長谷川熊之助正珍は、3代前が本家から500石を分与されて立った。住まいは千駄ヶ谷の塩硝蔵跡。
長谷川久大夫正栄は、先代が御納戸町から500石を分けられて別家となった。屋敷は市ヶ谷門の近く。

大久保甚太郎の例もございます。広く網を張ったほうが、魚がかかるとおもいました」
家康時代の田中城の城代だった幕臣たちの風聞が入るかも、というのだ。
風聞はいいわけで、本音は餞別集めにきまっている。
温厚な宣雄は苦笑するしかなかった。
「餞別への返礼は、帰路に箱根の細工ものでも手当てすることだな。施された額が多ければ、求める細工ものも大きくなる。手にあまるかもしれぬぞ」
銕三郎め、困ったといった顔をしたが、宣雄は見ぬふりをしていた。

その後、このたびのことは、田中藩の前藩主・本多伯耆守正珍(まさよし)侯の無聊をなぐさめるための遊びごとてあるから、あまり公けにしてはいけない。
また、遊びごとであるから、公務以上に礼儀正しく振舞わなければならない。
田中城へ登っても、城代家老・遠藤百右衛門はもちろん、藩士の面々、話をしてくれる名主のみなさんへも、きちんと礼をつくすようにさとした。

銕三郎をさがらせてから、宣雄はいつものように名簿を見つめている。今宵は、内藤紀伊守信興

松平大膳亮忠告(ただつぐ)侯 18歳 4万石
水野織部中忠任(ただとう)侯 26歳 唐津6万石
北条出羽守氏重(うじしげ)侯 断家 3万石
西尾隠岐守忠尚(ただなを)侯 71歳 横須賀3万5千石
酒井河内守忠佳(ただよし)侯 74歳 5000石
土屋能登守篤直(あつなお)侯 33歳 土浦4万5千石
太田摂津守資次(すけつぐ)侯  45歳 大坂城代3万2千石
内藤紀伊守信興(のぶおき)侯 40歳 棚倉5万石
土岐美濃守定経(さだつね)侯  22歳 沼田3万5千石

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【参照】2007年6月19日~[田中城しのぶ草] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25)

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『藤枝市史 上』(藤枝市 1980.3.31)から転記。

内藤豊前守弌信(かずのぶ)は、宝永2年(1705)4月23日、陸奥国棚倉城から転封となり、50,000石を食んで田中城を治した。
家老は白坂久右衛門、久永惣右衛門である。
弌信の祖は信成で、天正8年(1580)伊豆韮山で城で10,000石を食み、慶長6年(1601)3月、駿府城主となり、慶長11年9月、若狭国長浜に移り、孫信照は忠長卿幽閉儀田中城の在番を命じられたこともあるゆかりの地である。
信照は陸奥国棚倉城を治し70,000石を領した。
弌信はその孫にあたるのである。弌信は田中城に居ること7年、正徳2年(1712)5月15日、大坂城代に進み、享保5年(1720)9月、所領を越後国にうさつされ、村上城に住した。子孫相ついで村上城主となり、明治にいたった。

投稿: ちゅうすけ | 2007.06.29 08:33

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