(つづき)
佐嶋忠介を通じて、おまさに手当をあたえ、連絡(つなぎ)の方法もめんみつに打ち合せさせた。[4―4 血闘]p139 新装p146
「長官(おかしら)!」
捕手をひきいて、与力・佐嶋忠介が駈け寄った。
「佐嶋か……よく間に合うた」
「はっ……」
「それにしても、おそすぎる。いま一歩、おくれたら、おれはこの世にいなかったぞ」
「おそり入り……」[血闘]p157 新装p165
(おまさがおみねのお目こぼしを願ったので)すぐさま平蔵は、与力・佐嶋忠介をよびよせ、おまさを加えて策を練った。[4―6 おみね徳次郎]p218 新装p229
或朝。居間の庭に咲いている木槿(むくげ)の花をながめつつ、長谷川平蔵が茶を喫していると、庭へ、佐嶋忠介が入ってきた。
「お、佐嶋。おみねはどうしている?」
「あきらめきっております故か、元気も出てまいりました」
「気をつけるのだな、佐嶋」
「は……?」
「元気が出るとあの女、取調べのおぬしへ色目をつかうやも知れぬ」
「御冗談を……」[おみね徳次郎]p234 新装p245
「女という生きものは、みな一色(ひといろ)のようでいて、これがちがう。女に男なみの仕事をさせたときにちがってくるのだ。もっとも盗みの仕事ではないがな」
「はい」
「老巧なおぬしも、只ひとつ、女には疎(うと)いなぁ」
「おそれ入りました。まったく、その通りで……」[おみね徳次郎]p235 新装p246
捕らえた五郎蔵をわざと逃亡させたのは、ほかならぬ平蔵で、このことを知るものは与力(よりき)の佐嶋忠介、同心・酒井、竹内など、ふだんから密偵たちとの交渉が多い人びとにかぎられた。[5―1 深川・千鳥橋]p21 新装p21
(木村忠吾につかみかかった田中貞四郎を)与力・佐嶋忠介がなだめた。[5-7 鈍牛]p255 新装p268
平蔵の手紙を南町奉行・池田筑後守長恵へ届ける。[鈍牛]p264 新装p278
「まことにもって、このたびは、われら一同の……」
与力・佐嶋忠介が一同を代表して両手をつき、わびをいいかけると、長谷川平蔵は佐嶋の声を、
「よせ」
とさえぎり、
「辞めずにすんだよ」[鈍牛]p285 新装p299
「長谷川様も私も、どのようなことを耳にしたとて、決して他(ほか)へもらすようなことはありませぬゆえ、申されにくいことも、はっきりといっていただきたい」[6―1 礼金二百両]p26 新装p27
「女の移り香というものは、なかなか落ちぬものだな」
謹厳な佐嶋が、冗談をいったのは、はじめて。[礼金二百両]p26 新装p27
佐嶋が、ずっしりと重い二百両の包みをさし出すと、
「よし。これで当分は、泥棒どもをつかまえるための費用(ついえ)に困らぬな」
「はい」
「このようなことを、あえてするおれを……おぬしの御頭を、おぬしは何とおもうな?」
「は……」
佐嶋忠介は、ついにたまりかね、両手で顔をおおやった。
「泣くな、佐嶋……」[礼金二百両]p38 新装p40
与力・佐嶋忠介が指揮する一隊が千住・荒川岸の足袋師・留吉の家を包囲。[6―3 剣客]p104 新装p110
「もしやして、その女巡礼なるものは、狐火一味の引き込みをつとめたのではございますまいか。行き倒れの身を一夜、山田屋の世話になり、夜ふけに起き出し、内から戸を開けて一味を誘いこむという……」
と、与力の佐嶋忠介がいうのへ、平蔵はうなずいて見せ、
「おまさをさがしてまいれ。忠吾が行け」[6―4 狐火]p129 新装p136
粂八が帰って行くのと入れちがいに、与力・佐嶋忠介が何かの報告にあらわれ、
「粂八が、よくまいりますが、何か特別な探索でも?」[6―5 大川の隠居]p201 新装p212
「馬を飛ばして大宮へ行け。萩原宗順とおよしをつれもどせ」
すぐさま、与力・佐嶋に、沢田小平次をつけ、大宮の油屋へ急行せしめた。[6―7 のっそり医者]p278 新装p290
寝所から起きあらわれた長谷川平蔵が、いきなり、当直の与力・佐嶋忠介を呼びよせ、
「雑司ヶ谷の鬼子母神の本堂の床下を洗って見よ。もしやすると、白峰の太四郎の隠居金が見つかるやも知れぬ」
というではないか。
おどろいた佐嶋が、
「あの、去年の……?」
「そうだ」
「ようおわかりになりましてございますな」
「うむ……ま、行って見よ」
そこで佐嶋忠介が配下を引きつれ、鬼子母神へおもむき、二日にわたって本堂の床下をさぐってみたところ、なんと、本堂・北端の床下の敷石のずれた箇所を発見し、この下を掘り起こして見ると、鉄ぶちの木箱があらわれた。
ふたを叩きこわすと、中には、蝋で密封されたもう一つの木箱が出て来て、この中に七百両の小判がおさめられたいたのである。これには、平蔵のやり口に馴れている佐嶋忠介も、
「いやどうも、御頭は、おそろしい御方だ」
おもわず、身ぶるいが出たという。[7―2 隠居金七百両]p72 新装p75
そのころ……。
長谷川平蔵は、老巧のの与力・佐嶋忠介を居間へまねき、酒の相手をさせている。
庭に夕闇が淡くたちこめ、生垣の枸橘(からたち)が白い花をつけて、その香りが居間にまでただよってくるかのようであった。
「佐嶋。あの万屋小兵衛をなんとおもうな?」
「いえ、みなみなとも語り合うて、おどろいております」
「どのようにおどろいた?」
「常の商人(あきんど)とはおもえぬ肝のふとさにて、よう、あれだけのはたらきを……」
「それは、常の商人ではないからだ」
「なんとおせられます?」
「あの爺いが、まともに友蔵と打ち合えるものか。つまり、前々からしかるべく、友蔵を見張り、じゅうぶんの支度をととのえていたのさ」
「ははあ……?」
「ふ、ふふ……おれがにらんだところ、あの小兵衛も、たたけば埃が出ようよ」[7―3 はさみ撃ち]p107 新装p113
平蔵は沢田同心を、報告に来た伊三次につけて砂村新田へやり、すぐさま、手配にかかり、みずから与力・佐嶋忠介と密偵・相模の彦十をつれ、これも密偵の小房の粂八が経営する舟宿〔鶴や〕へ、日暮れ前から、出張(*でば)っていたのである。[7―4 掻堀のおけい]p133 新装p140
南新堀町一帯へも平蔵自身が微行巡回したり、与力・佐嶋忠介をはじめ、粂八・伊三次・おまさなど選(よ)りすぐった密偵の眼を絶えず光らせているのだけれども、どうにもこうにも、雲をつかむようなことになってしまっていた。[7―5 泥鰌の和助始末]p183 新装p191
「ふうむ……近ごろ、めずらしく、本格の盗(つと)めをしたようだな」
すぐには、何の手がかりもつかめぬと知ったとき、長谷川平蔵は、与力の佐嶋忠介へ、
「こうなれば、由松・お粂の父娘(おやこ)を洗うよりほかに道はあるまい。もっとも、その二人、まことの父娘ともおもえぬが、な」
と、いった。
佐嶋も同感である。
(これはもう、どうにも仕方がございませんな)
といった表情が、佐嶋の面上にただよっていた。[7―7 盗賊婚礼]p251 新装p263
ここでまた平蔵は、粂八と二人きりで、ひそひそと相談をかわし、
「このことは、佐嶋忠介とお前のみに知らせておく。なればくれぐれも、隠密の連絡(つなぎ)にぬかりのないようにな」
「はい。合点(がってん)でございます」
この夜、平蔵は駕籠(かご)をよんでもらい、清水門外の役宅へ帰って行った。
翌朝。
平蔵は、与力、佐嶋忠介を居間へよび、二人だけで、かなり長い間語り合っていた。[8―1 用心棒]p34 新装p36
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