女賊お才(さい)
『鬼平犯科帳』巻4に所載[あばたの新助]で、長谷川組の同心・佐々木新助(29歳)を誘惑、組の夜の警戒巡回情報をききだす役目を成功させた女賊。
(参考:同心・佐々木新助)
兇悪な首領〔網切(あみきり)〕の甚五郎(50男)の女房という触れこみのお才(さい)だが、どうみても20後半に入ったかどうかだから年齢が違いすぎるし、甚五郎が潜んでいるのは加賀であることが多いから、江戸へ現れたときの妾のような立場とみる。
(参考: 〔網切(あみきり)〕の甚五郎の項)
お才は、佐々木新助が甘いもの好きということで、富岡八幡宮境内の東側、二軒茶屋のうちの〔伊勢屋〕の隣で、甘酒・しる粉の〔恵比寿屋〕の茶汲み女となって網を張り、情事に初心な新助をまんまとたらしこむ。
上=北 富岡八幡境内の赤○=二軒茶屋の位置。
八幡宮の南正面の先が蓬莱橋。
『江戸買物独案内』(文政7年 1824刊)
年齢・容姿:20代後半にさしかかったばかり。「躰つきに健康な女の若さがみなぎり、うす化粧の下の鮮烈な血の色が、かくそうとしてもかくしきれぬ」「くろぐろとした双眸(りょうめ)」「豊満なお才の乳房が夕あかりをうけ、ことさらにふかい陰影をつくって、むっちりともりあがり、腕や肩のあたりの産毛(うぶげ)が光って見える」
生国:不明だが、甚五郎に仕込まれた性技にたけたあたりから想像するに、武蔵野国江戸かその近郊生まれであろう。
探索の発端:偶然に深川の巡回をおもいついた鬼平が、富岡八幡宮の前の道を歩いてくる浪人姿の新助とお才を見かけて尾行し、富吉町の正源寺(江東区永代 1-8-8)裏の〔川魚・ふじや〕をつきとめた。
正源寺裏の〔川魚・ふじや〕
ここでお才と素っ裸で睦みあっていた新助は、〔網切〕の配下の文挟〔ふばさみ〕の友吉(406男)に恐喝され、組の見廻り順路を洩らすはめになった。
(参考:文挟〔ふばさみ〕の友吉の項 )
結末:見廻りの隙を幾たびも衝かれた鬼平は、お才逮捕の手配をしたが、そのとき新助は、〔網切〕配下の浪人と切りむすんで惨殺されていた。
つぶやき:
お才のような魅惑的な女性の性技にかかると、経験不足の若い男は、新助でなくてもたいてい参ってしまうであろう。
いや、年齢に関係なく男も女も、性技の深みには興味がつきるということがない。
それをどこで打ちどめにできるかは、自制心の強弱によろう。
小説の構成上はなんの問題にもならないような隙を。
新助の亡父・伊右衛門も、鬼平の亡夫・宣雄が先手組頭のときの組下にいたので銕三郎は顔を見知っていたとあるが、宣雄が就いていたのは先手弓の7番手、平蔵宣以が組頭となったのは弓の2番手。
7番手から移籍してきたのならともかく、2番手の組みに新助がいるのは、当時の先手組の組織からいっていささか奇妙。
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