浅野大学長貞(ながさだ)の異見(6)
布団のかたわらに、皺になった桜紙が10ヶ近くも散らかっていた。
「平(へい)さまは、火盗とお親しいのですか?」
「火盗---? ああ、火付盗賊改メか。そういえば、もう5年も前のことだが、大(だい)の頼みで、平が安房国朝夷郡(あさいこうり)へ盗賊を捕まえに、そのときの火盗改メのお頭(かしら)・永井---おれとは字がちがう、永遠の「永」の永井采女直該(なおかね 52歳=当時 2000石 鉄砲(つつ)組の4番手組頭)さまの組下の同心と出張(でば)ったことがあったな」
【参照】2009年5月16日~[銕三郎の盟友・浅野大学長貞] (1) (2)
2009年5月21日~[真浦(もうら)の伝兵衛] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)
深川・海辺大工町の一劃---本誓寺の脇の二階家であった。
小料理〔蓮の葉(はすのは)〕の女連れの客のために整えられているのだという。
真夏の宵らしく、蚊帳の男女は巣裸で、腰のあたりにさえ布もまとわず、あられもない。
もちろん覗いているのは、行灯の細くした炎だけであった。
凝脂(ぎょうし)がみなぎった肌をさらしているおんなは、〔蓮の葉(はすのは)〕の女将のお蓮(はす 31歳)。
同年配とみえる男は、幕臣で西丸・書院番3の組の番士の長野左左衛門孝祖(たかのり 31歳 600俵)であった。
「平さまは、おんなは---?」
「おいおい---」
「そうじゃ、ないんです。奥方をお貰いになるまえにいらっしゃったんです、雑司ヶ谷の料理茶屋の座敷女中だった人---」
「知らなかったなあ」
「大年増---30も半ば---あら、わたしはそのころ、20(はたち)を出たばっかり---。なんですか、指をおって数えたりして---」
銕三郎(てつさぶろう 平蔵の家督前の名)が事情があって、お仲(なか 34歳=明和5年)を雑司ヶ谷の料理茶屋〔橘屋〕忠兵衛に頼みこみ、住みこみの座敷女中に雇ってもらったのは、8年前であった。
【参照】2008年8月4日~[〔梅川の仲居・お松] (4) (5) (6) (7)
2008年8月14日~[〔橘屋〕のお仲] (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)
2008年8月29日[〔橘屋(たちばなや)〕忠兵衛]
「すると、お蓮どのは29歳?」
「齢など、どうだってよろしいではないですか。佐左さまより齢上ってこはありません。お互い、これに満悦すればいいのです」
おとこの両股に差しいれていた太腿を軸に、上にのしかり、舌を差しいれた。
「そろそろ、お眠(ねむ)にしますか?」
「眠いのか?」
「わたしは大丈夫ですが、佐左さまには、明日のお勤めがおありでしょう?」
「ひと晩くらい、眠らなくても---」
「たのもしい」
腰を浮かせ、位置をきめながら、
「平さまに、いま、おんなは?」
「また、平のことか。あいつは、年増にもてるのだ。なんでも、息子が剣術を習っている大身の後家に口説かれているとかいっていたが、どうなったことやら---む」
「膝の内側を引いてください」
「こうか?」
(栄泉『艶本華の奥』部分 イメージ)
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