女密偵おまさ
『鬼平犯科帳』を通してのマドンナ・おまさの初登場は文庫巻4の[血闘]。
その後は93話に顔と名をだしている。
聖典は長編の各章も1話として計算すると164話。
おまさの出現は、長谷川平蔵が火盗改メの本役についた天明8年(1788)10月2日から数日後。平蔵本役中の事件としては、[〔血頭〕の丹兵衛]以降から。
さらに〔狐火〕の2代目と京で暮らしていた期間の事件である6話も差し引くと、155話中94話に顔見せ、登場率61パーセント。これは、筆頭与力・佐嶋忠介、同心・木村忠吾と並ぶ頻度で、それほど重要な役どころということ。
年齢・容姿:宝暦8年(1758)生まれ。[血闘]の事件のときは31歳。〔大滝〕の五郎蔵と結ばれたのが36歳。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
銕三郎(平蔵の若いときの名)に淡い恋ごころを抱いていた少女時代は小肥りだったが、すっきりと〔年増痩せ〕している。肌は江戸の女の常で浅ぐろいがあれてはいない。黒くてぱっちりした双眸(りょうめ)とおちょぼ口。
生国:江戸(東京都)。父親は〔鶴(たずがね)〕の忠助。母親は不明。
(参照:[おまさの年譜(ねんぷ)]
[おまさの少女時代] (1) (2) (3)
[おまさの手紙(てがみ)]
[テレビ化でうまれたおまさと密偵]
〔鶴(たずがね)〕の忠助の項)
探索の発端:おまさがらみの探索の発端(事件の年代順)---
[4-6 おみね徳次郎](参照: 女賊おみねの項)
[5-3 女賊](参照:〔瀬音〕の小兵衛の項)
(参照: 〔福住〕の千蔵の項 )
[4-4 血闘](参照:〔吉間〕の仁三郎の項)
[6-4 狐火] (参照: 〔狐火〕の勇次郎 2代目)
(参照: 〔瀬戸川〕の源七の項)
[8-3 明神の次郎吉](参照: 〔明神〕の次郎吉の項)
[9-2 鯉肝のお里](参照: 〔鯉肝〕のお里の項)
[10-1 犬神の権三](参照: 〔犬神〕の権三郎の項)
[13-4 墨つぼの孫八]](参照: 〔墨斗〕の孫八の項)
[14-2 尻毛の長右衛門](参照: 〔尻毛〕の長右衛門の項 )
[19-6 引きこみ女]](参照: 〔駒止〕の喜太郎の項)
(参照: 〔磯部〕の万吉の項)
[23 炎の色]](参照: 〔荒神〕のお夏の項 )
[24 女密偵女賊](参照: 女賊お糸の項)
[24 誘拐](参照: 〔男川〕の久六の項)
---と、鬼平がらみの発端につづいて聖典中、2番目の多さ。
結末: [24 誘拐]で誘拐されるが、未完のまま、池波さんが逝ったので、まだ救出されていない。
つぶやき:天明元年(1780)に女児を出産。その子は、父親の縁で佐倉(千葉県)に預けてあり、初登場のときは7歳。
キー・キャラクターの一人であるおまさの登場が、第25話とあまりにも遅すぎるので、あれこれ考慮した末、テレビ化に関係がありそうと気づいた。連続テレビドラマには、男性にも女性にも好感をもって受け入れられる女性キー・キャラが必須である。
で、テレビ化をすすめた故・市川久夫プロデューサーに聞いた。
「池波さんへ、おまさの必要を説いたのはあなたでしょう?」
「ご明察のとおり」
しかし、銕三郎への片思いを30すぎても抱きつづけているという、切なくはあるが、男にとってはうれしいような女性キー・キャラの設定は、大衆文学の常道とはいえ、おまさはみごとな人物造形であった。
おまさが、仕えたり、助(す)けたりしたお頭は----、
〔法楽寺〕の直右衛門(参照: 〔法楽寺〕の直右衛門の項)
〔乙畑〕の源八(参照: 〔乙畑〕の源八の項)
〔荒神〕の助太郎(参照: 〔荒神〕の助太郎の項)
〔狐火〕の勇五郎(参照:〔狐火〕の勇五郎の項)
〔墨つぼ〕の孫八(参照: 〔墨つぼ〕の孫八の項)
〔櫛山〕の武兵衛(参照: 〔櫛山〕の武兵衛の項)
〔熊倉〕の惣十(参照: 〔熊倉〕の惣十の項)
〔峰山〕の初蔵(参照: 〔峰山〕の初蔵の項)
〔苅野〕の九平(参照: 〔苅野〕の九平の項 )
〔野見〕の勝平(参照: 〔野見〕の勝平の項)
-----と、おまさがいかにすぐれた頭脳と技量をもったキャリア・ウーマンだったかをしのばせる、錚々たる首領たち。
母親は、おまさが10歳にならないうちに病死したらしい。おまさの肌は「江戸の女の常で浅ぐろい」との記述から推理すると、母親は江戸生まれということになる。父親の〔鶴(たずがね)〕の忠助は佐倉の在の生まれだからである。
どういういきさつでおまさが生まれたものか。
(参照: 〔鶴(たずがね)〕の忠助の項)
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コメント
〔狐火〕の2代目とともに京都で仏具商の内儀となったおまさが、勇五郎を流行病いで逝かせて、半年で江戸へ舞い戻ってまた密偵を志願しますが、これって、池波さんの都合(いや、テレビ側の都合)で、おまさのいないテレビ劇は視聴率が下がるというので、復帰させたのでは---と、おもいいたりましたよ。
文庫巻6[狐火]の末尾に、とってつけたように復帰のことが添えられているのは、おまさを京都へ行かせたものの、不安になり、池波さんが市川プロデューサーへ問いかけた結果ではないのでしょうか。そう、おもえて仕方がありません。
投稿: ちゅうすけ | 2005.03.03 09:02
「盗人探索日録」を初めから読み続けていますが
女密偵おまさの活躍は他の追従を許さないものが
あります。
鬼平の信頼も厚く、どんな危険にも臆せず、一重に
鬼平のため、少女時代からの思慕を秘めて働く様は、
せつないものがあります。
おまさの鬼平への想いの強さ、真摯さが感じられますが、そうさせるには、鬼平の誠実さ、心の大きさ、いえ
女性の扱いの上手さが関係しているかもしれません。
鬼平は優れた指導者として、多くの男性の部下を統率していますが、女心も良く解っているのですね。
一度京都へ嫁したおまさがすぐにもどってくるのは、
視聴率の下がるのを防ぐ為かもしれませんが。
私はおまさがただ秘めた想いのままで、なりふり構わず密偵をしているのは、女として可哀想過ぎると思ってました。
しかし鬼平を捨ててまで(?)付いていき、たとえ
半年で死に別れても、百に一つという心身共に融合
出来た狐火の二代目勇五郎がいたという事は、おまさ
にとって生涯何ものにも変えがたい心の宝なのでは
ないでしょうか。
この設定が女性フアンにとっても安堵感があるのです。
この心の宝があるからこそ、戻ってきたおまさは
一層危険を顧みず密偵が務まるのだと思います。
投稿: みやこのお豊 | 2005.03.03 17:15
梶芽衣子さんのフィルモグラフィは下記URSにあります。参考にどうぞ。
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=117714
投稿: 豊島のお幾 | 2005.03.04 09:48
おまさの母親は堅気の女性でしょう。
母親は夫が盗賊とは露程も疑わず一緒になったのかも知れません。
それで鶴の忠助はおまさが少女期になった時に未練残さず足を抜き、おまさを母親と同じ堅気に育てようという気持ちだったのでしょう。
佐島忠介が女盗賊の「おみね」を密偵にというと、平蔵は言下に「女という生きものは、みな一色のようでいて、これがちがう。女に男なみの仕事をさせたときにちがってくるのだ(旧版文庫4おみね徳次郎P-235」と言って、平蔵はおまさの人格、資質のたかさを評価してます。
これはきっとおまさには母親の血が濃くながれているからだと思います。
[血闘]のおまさを読むには辛いものが有りました。
投稿: 靖酔 | 2005.03.04 11:31